もう5年ほど前のことになりますが、
美容業界で知らない人はいない、インスタグラムのフォロワー数20万人以上を持つ美容師さんを取材したことがあります。
1冊の『スタイルブック』をつくるという企画で、その美容師さんのお住まいにもお邪魔し、じっくりとお話を伺いました。
美容学生時代から続く、ストイックな日々
美容専門学校に在籍している頃から、「とにかくカットが上手くなりたい」と、毎日のように練習を重ねていたそうです。自宅では、ハサミの開閉を何時間も繰り返す日もあったといいます。まさに、努力に努力を重ねる日々でした。
「絶対にトップをとる」と心に決めて上京した、とも話してくれました。
有言実行。
彼は、女性ファッション誌でのヘアメイクやファッションショーのヘアメイクを経験し、美容室の立ち上げメンバーとしてディレクターに就任。InstagramなどのSNSを駆使して、トップインフルエンサーの地位を築いていきました。
ヘアカラーメーカーのアンバサダーに選ばれ、海外でのヘアショーにも出演。まさに、美容師として「成功者」と呼ばれるキャリアです。
トップインフルエンサーの意外なひと言
取材の終わり際、彼はこんな言葉を口にしました。
「ヘアショーはいつもスゴい!って言われるし、ヘアカタログに載った作品も“可愛い”って褒められます。
でも、それはもう過去のものなんですよね。次は何をやればいいんだろうって、いつも考えています」
その言葉を聞いたとき、私は胸の奥がざわつきました。これだけの実績を重ね、多くの人に憧れられる立場にいながら、彼は決して幸せそうには見えなかったからです。
数字も、評価も、影響力もある。都会のど真ん中のとてもセンスのよいお部屋に住み、最先端のファッションに身を包んでいる。それでも、立ち止まれない。だからこそ、立ち止まれない。
彼はこの取材のあと、自身の美容室をオープンしました。
それでも、成功のために走り続ける
サロンのオープンはひとつの到達点であり、同時に、次のスタートでもあります。スタッフを抱え、経営者としての責任が増え、発信者としての影響力もさらに大きくなる。立ち止まる余白は、以前より少なくなったのだと思います。
美容業界は「成功」を更新し続けなければならない世界なのです。トップに立つということは、一度きりの成功では終われない、ということでもあります。
サロンを出せば、次は何店舗か。フォロワーが増えれば、次はどこまで影響力を広げるか。常に「次の成功」を更新し続けなければならない構造のなかで、人は知らず知らずのうちに、走ることそのものをやめられなくなっていくのだと思います。
トップに立ち続けるために、走り続けることが求められる世界。
そこでは、「早く結果を出すこと」「分かりやすく変わること」が、価値として最重要視されてきました。
美容業界で、強い化学薬剤を使ったスピード重視の施術が当たり前になっていった背景にも、この構造があるように思います。
予約サイトの枠を、いかに埋められるか。1回の施術でどれほど高額の料金を取れるか? それが、トップ美容師であり続けるためのひとつの目安になっているのです。
短時間で変化が出る。
写真映えする。
数字につながる。
けれど、そのスピードの裏で、髪や頭皮、そして施術する側の身体に、何が積み重なってきたのか。立ち止まって考える余地は、あまりにも少なかったのではないでしょうか。
美容は、こんなに急ぐものだったのだろうか?
けれど、美容は本来、ここまで急ぎ続けるものだったのでしょうか?
結果を急ぐあまり、私たちは、自分の身体や心の声を置き去りにしてきたのではないでしょうか?
自然派の美容には、スピードや変身とは違う価値があります。
時間をかけることで、人は少しずつ緩んでいきます。
髪や頭皮に触れながら、ヘナを塗る時間そのものが、リラックスや癒しになっていく美容。
強く作用させるのではなく、無理に変えるのでもない。
余分なものを足すより、余分なものを手放していく。自然派美容は、「変身」ではなく、本来の自分に戻っていく感覚に近いのかもしれません。
もうひとつの選択肢としての自然派美容
走り続ける美容の世界の中で、立ち止まることを選ぶ。
スピードとは反対の場所に、もうひとつの美容の選択肢があることを、私はみなさんに伝えていきたいと思っています。
美容師さん向け、また個人の方向けに、少人数での「お話会」やヘナレクチャーもおこなっています。
ご相談はこちらまで!
いっしょに未来の髪を育てていきましょ🌿
ヘアライター/上條華江


