自然派サロン「emie」のえみさんに聞く:ケミカルからナチュラルへの移行とその背景
みなさん、こんにちは、こんばんは。
脱ケミカル&ナチュラルな髪のお手入れ術を発信しています、はなはな(ヘアライター上條 華江)です。
今回は、東京都北千住で自然派サロン「emie」を運営されているえみさんにインタビューしました。
1970年生まれのえみさんは、美容師歴約35年の大ベテランです。現在は北千住にあるご自身のサロン「emie」で、ヘナや植物由来の製品を使用し、髪と頭皮の健康を大切にした施術を行っています。
そんなえみさんがケミカルな美容師を経て自然派へと移行した経緯と、その半生についてお話を伺いました。
私も20代から長年にわたり、ケミカルな施術によるヘアスタイルについての記事を書いてきました。今年の初めにSNSを通じてえみさんに出会い、ケミカルからナチュラルへの移行仲間として意気投合! こうしてインタビューをさせていただけたことを、とても光栄に思っています。
高校時代から地元の美容室でアルバイトを開始
「父がまともに働かず、いつも家計が苦しかったことが美容師になったきっかけなんです。動機が不純でしょ?(笑)
祖母からいつも『女性でも一人で生きていけるように手に職を持ちなさい』と言われていたので、美容師か栄養士になろうと子どもの頃から決めていました」
お母さんが外で働き、おばあちゃんにベッタリだったというえみさん。「手に職を」というおばあちゃんのアドバイスと懸命に働くお母さんの姿を見て、小さいころから「早く働いてお金を稼ぐようになりたい」と思っていたそうです。
高校時代に通信制の美容専門学校で学びながら、地元の美容室でアルバイトを。高校卒業後に美容師免許を取得して、地元の人気美容室に就職しました。
「20代のときはお客さまに支持される美容師を目指して、無我夢中で働きました。ハングリー精神のカタマリなの!」と笑うえみさんは、地元の美容室に就職してからの16年間休んだ記憶がないぐらい働いたそうです。
「当時働いていた美容室は地元密着型で、数店舗を経営。全盛期は行列もできるほどの人気店でしたね。20代後半には店長を務めていたんですが、29歳のときに転機が訪れました」
美容室の代表としてロンドンで開催されたワールドヘアコングレスを視察
美容室での売り上げがトップだったことから、ロンドンで開催された「ワールドヘアコングレス」の視察に行く機会が与えられたと言うえみさん。視察をきっかけに「ロンドンで何かやってみたい!」との思いが強くなり、即行動へ。
「翌年には2週間の休みをとって、ロンドンに短期留学しました。留学先のサロンではカットモデルを募集していて、無料で色々な国の人のヘアカットを担当させてもらったんです。アフリカ系の人も中国人も担当しました。中国人とはお互いに不慣れな英語でコミュニケーションをとりながら『こんな髪にして!』『こんなのはどう?』といったやりとりを。それがとても楽しかった! アフリカ系のくりんくりんなウェーブヘアをストレートにするオーダーもありました。留学先のサロンである程度のキャリアがあるのが私だけだったので、難しいオーダーはぜんぶ私のところに! そうそう、ご近所に住むイギリスの女性のシャンプー、ブローもしました。カットもしてみたかったな~」
美容師になって初の短期留学はえみさんにとって、とても刺激的で楽しいものになったことが伝わってきました。
留学のために初めて2週間の長期休暇を取ったえみさん。しかし、勤めていた美容室では1週間以上の休暇が認められておらず、特例として扱われました。この出来事がきっかけで、新店舗の店長を希望していたものの、そのポジションには就けなかったそうです。
16年勤めた美容室を退社して、独立へ
「ここにいても、これ以上私の希望が叶うことはないな」と感じ始めたえみさんは、34歳のときに独立を決意しました。その数年前から、咳がよく出るようになっていたそうです。
えみさんは「それでも、16年も美容師をさせていただき、社会人としてのイロハを社長や先輩から教えていただき、後輩を育て、同期と切磋琢磨した日々も懐かしく、とても感謝しています。忙しいお店で大勢のお客様を担当できたことは私の宝物です。早い仕事も身につき、今も活かすことができています」と当時を振り返ります。
「独立については予想以上にスムーズに進みました。現在のサロンは、最初に見た物件で、お煎餅屋さんから譲り受けたものです。16年間同じ美容室に勤務していたおかげで、公庫での借り入れが円滑に進み、退社後すぐにサロンを開くことができました。でも、その頃はケミカルな美容室以外の選択肢を知らなかったため、独立後に始めたサロンもケミカルでした。咳が出るなど呼吸器系の体調不良を感じていたものの、当時はカラー剤など化学製品に関する知識が不足していたんですよね」
2005年に自身のヘアサロン「emie」をオープン。同時に盲腸になり、検査時に「卵巣が腫れている」と言われたというえみさん。「子宮内膜症」との診断結果だったそう。病院でクスリをもらい、数ヶ月後にチェックということになっていたところ、ヨモギ蒸しなど「冷え取り」を生活に取り入れている知人に「クスリはやめたほうがいい」と言われました。
「咳はクスリでは治らない」と数年前から感じていたえみさんは、半身浴やソックスの重ね履き、腹巻パンツなど冷え取りをおこなうように。「生活に取り入れたら体調が変化して、気が付いたら咳が出なくなっていたんです」
「生活や意識が変わると治ることがあるんだ」と実感し、病院やクスリから離れるきっかけになったそうです。
2019年、ついに自然派サロン「emie」が誕生
さらに子宮内膜症について調べていくうちに、「化学染料や薬剤による体への影響を知っていき、皮膚を通じて化学物質が体内に取り込まれる経皮吸収も気になりました」と言うえみさん。「その実情を知ってしまうと、お客さまに施すなんてできない! そんな思いがふつふつと湧いてきました。でも、今までの美容を手放すことには、かなりの葛藤がありました。美容師という仕事で生きていけるかどうかは死活問題。けれど、知ってしまった以上はやりたくない」
えみさんは、この美容法をやりたくないという気持ちが勝っていったのです。
同時期に冷え取りのお話会に参加したり、鍼灸院に通って「食がベース」ということを教わったりする中で、様々な知識が増えていったえみさん。そんな中で、「冷え取り」の仲間にヘナを取り入れている人が多くいて「美容師さんに塗ってもらいたい」と言われたことも自然派サロンへと移行する大きなきっかけになりました。
滋賀県のツキアカデミーや奈良県のインディハーブス、ヘナの伝道師・森田要さんの講演会、広尾のヘナサロンのオーナーなど、自然派美容を広げる活動をしている多くの人々との交流を重ね、ハーブや草木染めの知識を得ていったそう。
2019年についにemieは自然派サロンへと移行。それ以降、えみさんはヘナやインディゴなどの草木染めに魅了されていきます。
「ケミカル美容師時代は、お客さまの要望をなるべく叶えてあげたいと施術していました。その頃から美容室に頻繁にきてパーマやカラーをしている人の方が髪が傷んでいるとは感じていたんです。自然派サロンへと移行してからは、森田要さんが本にも書かれているように『クライアントは髪』という考え方に共感するように。クセ毛は活かすべきですし、白髪を不自然に黒く染める必要もないのです。多くの人が『白髪=困ったな、イヤだな』と思いがちですが、実際には白髪だからこそ、草木染めが生きて、柔らかで独自の風合いに染まるんですよね。『思った発色にならなくてイヤだな』と感じるのではなく、『植物の恵みで髪が染まっている』と考えることで、視点が変わると思います」
「お客さま一人ひとりの髪への想いは、その人自身の美容のクセ、マインド、ライフスタイルがよく反映される」とえみさんは言います。「だから、ケミカルよりも面白い。素直でやる気がある人は、どんどん美髪になっていくんですよ!」
確かにケミカルな美容室では、「見た目がキレイになればそれでいい」という考え方が一般的で、白髪ができたら染めるだけ、というのが常識です。しかし、えみさんの取り組みは、お客さまのマインドやライフスタイルにまでアプローチし、その常識を覆しています。それが真に美を提供する美容師としての姿勢だと感じました。
バリ島で得た自由な働き方のヒント
独立後、えみさんにはもうひとつの転機がありました。それは「休めない自分を変える」ということです。
地元の美容室を退職後、念願の自身のサロンをオープンしたえみさんは、再び猛烈に働く日々を送っていました。どうしても長期の休みを取ることを躊躇してしまっていたそうです。
しかし、サロンをオープンして4年が経った頃、周囲から「働き方も自分次第」という励ましを受け、思い切ってバリ島へ行くことに。
「バリ島では自分の心と魂が解放されるような感覚を体験し、普段の生活とは異なる環境に身を置くことで、自分をリフレッシュできることを実感しました。非日常の地で、自分自身を調整することの重要性を知り、それが日常に戻ったときに大きなエネルギー源になると感じたんです」
えみさんは以来バリ島の魅力にハマり、8年間、毎年バリ旅行へ。ハーバルショップでのワークショップに参加したり、ランプヤン寺院の2400段の階段を登って天空の寺院で祈りを捧げたり、滝行での浄化を体験したりと、非日常の経験が人生に大きな影響を与えたと話します。
「旅をしながら多くのバリスパのサロンを訪ね、クリームバスを体験しました。これが後に『日ごろの疲れを頭から癒します』というフレーズで、サロンにヘッドマッサージを導入するきっかけになったんです。衣服を脱がないでできるリラクゼーションで、女性を応援できたら…と思ったんですよね」
えみさんはシャンプー台をフルフラットタイプに替え、お客さまがゆっくりとヘッドスパを楽しめるようにしました。自然派サロンに移行した現在もバリ島のクリームバスをアレンジした「ヘッドクリームスパ」は人気のメニューのひとつです。
今後はオンラインで髪悩みを解消したり、ヘナに移行するお手伝いを
多くの美容室がケミカルな施術を行っている中、2019年に自然派サロンに移行した「emie」。その結果、ネットで検索して少し遠くからでも訪れるお客様が増え、今では予約が取りづらいほどの人気店に。えみさんは「まだまだ自分にはできることがある!」と新たな目標を掲げました。そして今月から、月に一度のZoomお話会をスタート。
「ヘナがあれば一生美髪でいられる、ということを多くの人に伝えたい」という熱い思いから、このオンラインお話会を始めることを決めて、慣れないPCでスライドの準備を。
併せてセルフヘナやインディゴを始めたい方に対して、丁寧にアドバイスをするサービスも始めました。「ヘナは自分でもできますが、ケミカル染料から髪草木染ヘナに移行するときのスタートアップが肝心です。間違ったやり方やヘナの選び方、インディゴの使い方など、説明書通りにやったとしても、髪質や白髪と黒髪の割合やバランスによって、施し方は様々です。植物の素晴らしい特徴が活かされず、ヘナが良くなかった(バサバサになった)ために、「もうヘナはしない」となった人もいます。だからこそ、私に質問して、最善のヘナへのスタートアップや再びチャレンジして欲しいのです」(詳細は、えみさんのnoteをご覧ください)
10代のころから無我夢中で働き続けてきたえみさんは、バリ島旅行をきっかけに「生きることは楽しむこと」「自由にもっと楽しんでいい」という考え方に自然とシフトしました。50代になった今、「オンラインを活用しながら、サロンとリラックスできる場所での2拠点生活を送り、旅するように暮らすのが目標です」と語ってくれました。
一人でも二人でも、ヘナの良さを知りたい人やチャレンジしたい人をサポートするために、美容師という枠にとらわれず、メッセンジャーとしての挑戦を続けています。
ケミカルから自然派サロンに移行してから、常連のお客様から「髪がつややかでキレイ! と褒められたんです」と言われる機会が増えたことが、えみさんにとっても大きな喜びに。こうした声が、えみさんの情熱をさらにかき立てています。
私もえみさんから情熱の灯に火をつけてもらい、今後もお話を聞いたり、コラボレーションしていけることがとても楽しみです!
えみさんの薬草ヘナ オンラインお話会詳細
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ヘアライター 上條 華江