美容業界の“TOYOTA”タカラベルモントのシャンプー先生を取材しました

今回お話を伺ったのは、脱ケミカルしたスパニスト・つねかげ陽宇さん(48歳)。
美容業界の“TOYOTA”とも称される日本最大手の美容メーカー、タカラベルモントでシャンプーインストラクターを務め、“シャンプー先生”として活躍されてきた方です。


【タカラベルモント株式会社】
理美容室向けの設備や機器を手がける、日本を代表するメーカー。
1921年に創業し、本社は大阪。100年以上にわたり、美容室の現場を支えてきました。
シャンプー台やセット椅子、ミラーなどのサロン設備から、ヘアケア製品や化粧品、さらには歯科・医療機器まで幅広く展開しています。
特に美容業界では、「バックシャンプー台」などの革新的な製品を生み出し、サロンの施術スタイルそのものを変えてきた存在。
現在は国内だけでなく海外にも展開し、プロフェッショナル向け機器メーカーとして世界的にも知られています。

お話を伺った、つねかげ陽宇(ツネカゲヨウ)さん。
おしゃれなアシンメトリーショートがお似合いです✨
脱ケミカル(ヘアカラー)して、
現在はヘナを愛用中🌿


つねかげさんは『ヘナ美容白書』を読んでくださり、
「私もカリスマ美容師ブームを見てきた世代です!」とお話しくださいました。ありがとうございます!

学生時代は、YUKIさん(ジュディマリ)の大ファン。いわゆる「青文字系」の雑誌を愛読していたそうです。
「YUKIさんのヘア&メイクがしたい!」そんな想いから、上京して美容系の短期大学へ進学。

そして迎えた就職活動は、“就職氷河期”。そんななか、最初に就職したのが資生堂系の美容室でした。


資生堂サロンで感じた、芸能人の“洗礼”

アシスタント時代、資生堂サロンには、当時CMに出演していた多くの芸能人が来店していたそうです。
「アシスタントの自分には近寄りがたい、圧倒されるような世界でした」と、当時を振り返ります。

その一方で、サロンの現場を通して、こんな実感もあったそうです。
「カットが6000円、カラーが6000円。そこにさらに3000円分、トリートメントや店販をプラスしていく。
それが“美容師の仕事”なんだな、と感じていました」。

華やかな世界の裏側で見えてきたのは、技術の向上だけではなく、“売上をつくる構造”でした。

美容系の短大に通っている頃から、「ヘアカラーは髪や頭皮にとって、あまり良いものではない」という感覚を、なんとなく持っていたそうです。

「姉が看護師をしているのですが、白髪染めをしている高齢者の方に、体調面で気になるケースがあるように感じる、と話していたことがあって。健康面にも影響があるのではないか、と当時からうっすら思っていました」と話します。

一方で、ヘア&メイクへの憧れは強く、「しっかりとヘア&メイクを学びたい」という気持ちは、大きくなっていきました。
そんなとき、タカラベルモントがシャンプーインストラクターを募集していることを知ります。
「まずはお金を貯めて、将来ヘア&メイクを学びたいと思ったんです」。こうしてつねかげさんは、タカラベルモントへと進むことになります。


サイドシャンプーとバックシャンプー

現在では美容室で当たり前のように使われている「バックシャンプー」ですが、2001年当時、主流だったのは「サイドシャンプー」でした。

みなさんは、美容室で
シャンプー台に注目をしたことはありますか?

※サイドシャンプーの特徴

美容師が、お客さんの横に立っておこなうシャンプー方式。
シャンプーボウルが壁ぎわに設置されているのが特徴で、サロンでは長く主流とされてきたスタイルです。

◎メリット
・横からしっかりアプローチできるため、すすぎの水圧をかけやすい。
・カラー剤やパーマ剤を効率よく洗い流せる。
・一度にしっかり洗えるため、施術時間を短縮しやすい。

▲デメリット
・お客さんと施術者の距離が近くなるため、フェイスガーゼなどの配慮が必要。
・姿勢によっては、首や頭に負担がかかりやすい。
・長時間の施術には向きにくい。
・施術者も腰をひねった姿勢で作業することが多く、身体への負担が大きいとされる。

※バックシャンプーの特徴

お客さんの後方から施術を行うシャンプー方式。
ヘッドスパやマッサージなど、リラクゼーションメニューとの相性がよいスタイル。
シャンプーボウルの後ろに施術者が立てる構造になっており、無理のない姿勢で施術できるのが特徴。

◎メリット
・後方から施術するため、お客さんに威圧感を与えにくい。
・フェイスガーゼを使わずに施術できる。
・リラックスした姿勢で施術を受けられるため、快適性が高い。
・施術者も自然な姿勢を保ちやすく、身体への負担が少ない。
・マッサージやヘッドスパなどの施術に適している。

▲デメリット
・後方からのアプローチのため、水圧をかけにくく、すすぎに時間がかかる場合がある
・従来型では、首や腰に負担を感じるケースもあったが、フルフラット型のシャンプー台の登場により、こうした負担は軽減されてきている。


バックシャンプー誕生の背景
~ヘアカラーブームとともに~

2000年代に入り、ヘアカラー施術の増加にともない、状況は変わっていきます。寝たままカラー剤をもみ込んだり、トナー(色味補正)を行う工程が一般化し、従来のサイドシャンプーでは対応しづらくなっていきました。

こうした変化のなかで求められたのが、施術のしやすさ=操作性の高いシャンプー環境でした。

そのニーズに応える形で生まれたのが、タカラベルモントが開発したバックシャンプーユニット「リアシャンプー」です。

サロンのリニューアルを検討しているオーナーに対しては
「いま3台あるサイド式のシャンプー台を、コンパクトなバックシャンプーに替えることで4台に増設できる」
といった提案をおこないながら、ショールームで実際の施術を実演する。

導入提案と体験を通して、バックシャンプーは広がっていきました。
その現場を、シャンプーインストラクターとして支えていたのが、つねかげさんでした。

インストラクターとしての役割

つねかげさんの重要な役割は、バックシャンプーユニット導入サロンへの技術講習です。

導入を検討しているサロンには、実際に体験や実演を行いながら、施術の流れや操作性、さらには空間づくりやリラクゼーションの価値までを具体的に伝えていきます。
その場で「導入後のサロンの姿」をイメージさせることが、導入の決め手となることも少なくありませんでした。

実際には、店舗改装の後押しや新店舗出店の構想まで、バックシャンプーを軸に提案が広がることもあったといいます。

水回り設備はサロンにとって不可欠なインフラです。その根幹を変えるバックシャンプーの導入には、不安も伴います。
だからこそ、インストラクターがしっかりと技術サポートをおこなう体制が、大きな導入メリットとなりました。

こうした背景もあり、当時は導入件数が爆発的に増え、日々多くのサロンを回る忙しい時期が続いていたそうです。


バックシャンプーの普及とヘッドスパ市場の拡大

つねかげさんのお話のなかで印象的だったのが、
「バックシャンプーの普及には、ヘッドスパ市場(頭皮ケア)を広げる意図もあった」という点です。

それまで美容室における“リラクゼーション”は、一般的な価値ではありませんでした。

しかし、ヘアカラーブームによってバックシャンプーがサロンに普及すると、お客さまが無理なく、リラックスした姿勢で長時間施術を受けられる環境が整います。
その結果、単に“洗う”だけでなく、“癒す”という新たな価値が生まれ、ヘッドスパというメニューへと発展していきました。(ヘッドスパという言葉をつくったのもタカラベルモントだと言われています)。

「カラーは、仕上がりを正確に確認するためにしっかりとした照明が必要ですが、ヘッドスパは、ダウンライトでリラックスできる空間にする。そうした照明設計も含めて提案していくんです」。

さらには、お湯をためる心地よい音や、リラックスできる香りを取り入れるなど、五感に働きかける空間づくりの提案もおこなっていたそうです。
「お客さまを寝かせる空間にする、というコンセプトだったんですよ」。

シャンプー台、技術、製品がセットになった販売

「美容商材を扱うメーカーは数えきれないほどありますが、タカラベルモントの場合はシャンプー剤などの製品だけではなく、シャンプー台という設備と、そこにオリジナルの技術・施術方法が加わる。それらをセットで提案・販売できるのが強みだったと思います」。

つねかげさんは、約5年間にわたる“シャンプー先生”の仕事を通して、美容業界の構造そのものに気づいていきます。

「ヘアカラーにしてもヘッドスパにしても、そこには必ず製品があり、最終的にはお客さまに何かを購入していただく。やはり、そういう仕組みになっていると感じました」。

“強い肌”でも避けられなかった手荒れ

タカラベルモントを退職後、つねかげさんは銀座の有名サロンで、専任のヘッドスパニストとして新たなキャリアをスタートさせます。

しかし、シャンプー講師時代も、ヘッドスパニストとして現場に立っていた頃も、シャンプーやトリートメントによる手のかゆみや乾燥といった違和感は、常につきまとっていたといいます。

「私は皮膚がかなり強いほうでしたが、それでも手荒れには悩まされました」。

さらに現場で施術を重ねるなかで、ある感覚が強まっていったといいます。

「たとえば、頭皮用の化粧品(美容液)を、スチームミストで浸透させる施術があります。そういった工程を見ているうちに、“経皮吸収もあるのではないか”と感じるようになり、次第に確信に変わっていきました」。

つねかげさんは仕事柄、友人から「どんなシャンプーを使えばいいの?」と聞かれることも多いそうです。
そんなときは、「なんでもいいと思う」と答えることもあるのだとか(笑)。

「シャンプーは、ほかと差をつけるために植物成分や香りなど、何かしらの付加価値を加えているだけで、本質的には大きな違いはないと思うんです。
洗浄力が弱いものを選ぶならアミノ酸系、という考え方はありますが、シャンプーは利益を出しやすい商品でもあるので、メーカーとしては売りたいですよね」。


さまざまな仕事を経て

2008年、つねかげさんは、美容業界の“付加価値ビジネス”やいわゆる“水ものビジネス”に疑問を感じ、一度その世界から距離を置きたいと考えるようになります。

そして、ホテルでのブライダルなど、異業種へと活躍の場を移しました。

しかしその後、再び美容の現場へ。
タカラベルモントでの“シャンプー講師”としての仕事にも戻り、現場と関わり続けていきます。

そして2019年。
お父さまが亡くなられたことをきっかけに、
「父に、自分が学んできた手技を施してあげることもできなかった」という思いが強く残ったといいます。

この出来事を機に、アロマテラピーの施術や、シャンプー講師、ドライヘッドスパなど、フリーランスとして複数の仕事を掛け持ちながら、“手技を活かした仕事”へと軸足を移していきます。



出産後に、化学物質過敏症に

その後、妊娠をきっかけに、それまでおしゃれのために年に一度はおこなっていたヘアカラーもやめたという、つねかげさん。

さらに、2年半ほど前からは、柔軟剤などの香りにも敏感になり、苦手意識を持つようになったといいます。

こうした体の変化をきっかけに、ヘナなどの自然派美容に興味を持つようになりました。

現在は、さまざまなメーカーのヘナを自身で試しながら、講演会やセミナーにも積極的に参加し、自然美容について学びを深めているそうです。

新たな目標は、環境に負荷の少ないヘッドスパのかたちをつくること

この春、お子さんが小学校に入学。
つねかげさんも、あらたな一歩を踏み出そうとされています。

現在はアルバイトで美容室のシャンプー業務に携わり、さらに技術を磨きながら、将来的には、自宅でヘナやハーブを取り入れたヘッドスパサロンの開業を目指しているそうです。

「ヘナのほかにも、粉タイプのハーブシャンプーやハーブオイルなどを使って、できるだけ環境に負荷をかけないかたちで、ヘッドスパを提供していきたいと思っています」。

ヘア&メイクの道には進まず、これまでに培ってきた手技と知識、そして経験を活かして、新たな“自然派ヘッドスパ”のかたちを模索する——。
つねかげさんの新たな目標は、いま、静かに動きはじめています。

貴重なお話をありがとうございました

20年以上にわたるライター経験のなかで、これまで多くのメーカーを取材してきましたが、バックシャンプー誕生の背景にあるストーリーは、今回初めて知ることができました。

つねけがさんがシャンプーインストラクターとして活躍されていた2000年代初頭。
私も美容室の取材をするなかで、「バックシャンプーが登場して練習をしているんです」「ゴシゴシ洗うならサイドシャンプー、マッサージならバックシャンプーがいいんですよ」といった話を、美容師さんから何度となく聞いていました。
(たしか、お客さんがシャンプー台を選べるサロンもありました。)

当時はそれを単なる“シャンプー台の違い”として受け止めていましたが、今回のお話を通して、平成ギャルカルチャーから生まれたヘアカラーブームと、こうしてつながっていたのかと、あらためて実感しました。

その後のヘッドスパや頭皮ケアブームも、シャンプー台ありきで広がっていったということになりますよね。

美容室で当たり前に受けている施術や使われている商品も、実は“売るための仕組み”の中にある。
自分の髪や体にとって、本当に必要なものは何か? みなさんが考えるきっかけになれば嬉しいです。

つねかげさん、貴重なお話をありがとうございました💖
これからどのようなかたちで、“手技”と“自然”をつないだ新しいヘッドスパが生まれていくのか。その歩みを、楽しみにしています😊

🌿つねかげさんインスタ https://www.instagram.com/amatsuhi_head_therapy/

新丸ビルのテラスにてお話を伺いました。
雨のなか、目の前には工事中の景色。
少し肌寒さも感じる日でしたが、
それも含めて思い出の一枚です💕




ライター/上條華江